REPEAT, BREAK, CALL BACK
図解 · 約8分
わかっているのに、また笑う——天丼とお約束のしくみ
天丼、お約束、回収。同じ言葉の再登場と、同じ刺激の繰り返しを分け、二度目以降に受け手が何を新しく受け取っているのかを見ていきます。
同じ一言が、違う場所に置かれる
「またその話か」と思ったのに、笑ってしまう。次のセリフがわかっているのに、その一言を待ってしまう。 笑いがいつも予想外の情報から生まれるのなら、こうした反応をどう考えればよいのでしょうか。
反復を見るときは、同じ言葉が出てきたことだけでなく、その言葉を受け取る状況がどう変わったかに注目してみます。 ある架空の会社に、何でも「担当者に確認します」と答える受付係がいます。
| 場面 | 受付係の返事 | 今回わかったこと |
|---|---|---|
| 客「会議室は何階ですか」 | 「担当者に確認します」 | 自分で答えず、確認する人らしい |
| 客「あなたのお名前は」 | 「担当者に確認します」 | 自分の情報にも同じ手続きを使う |
| 停電して、客が助けを求める | 「担当者に確認します」 | 緊急時にも、その癖を曲げない |
文字だけを数えれば、同じ返事が三回出ています。しかし二回目には、対象が会議室から本人へ変わる。三回目には、平常時から緊急時へ変わる。 繰り返される返事を通して、その人物の異様な頑固さが少しずつ見えてきます。
二回目以降の面白さを、「もう一度、同じ意外性を感じた」とだけ説明する必要はありません。「ここでも、その返事をするのか」という、言葉と状況の組み合わせが新しくなっています。
反復を、三つに分けて眺める
| 形 | 残すもの | 動かすもの | 創作上の例 |
|---|---|---|---|
| お約束の再登場 | セリフや動作 | 相手・状況・対象 | 何を聞かれても担当者に確認する |
| 反復からの変化 | 途中までの規則 | 最後の返答 | 最後だけ即答し、妙な得意分野がわかる |
| 離れた場面での回収 | 前に置いた言葉 | 時間・場面・言う人物 | 終盤で客のほうが同じ返事をする |
一つ目は「来た」という楽しさ、二つ目は「そこを外すのか」という驚き、三つ目は「前の話がここにつながるのか」という再発見として読むことができます。実際のネタでは重なることもあります。
Messerliのシットコム研究(2021)も、反復を単なる語句の重複に限定せず、発話・場面・物語の複数の水準で扱っています。 映像作品の分析は、大喜利の投票実験とは違いますが、「何の水準で同じなのか」を分ける入口になります。
三回だから面白い、とは限らない
先ほどの会話を、最後だけ変えてみます。
客会議室は何階ですか。
受付担当者に確認します。
客あなたのお名前は。
受付担当者に確認します。
客では、担当者はどなたですか。
受付母です。
最後の答えは、繰り返していた手続きの読み方まで変える可能性があります。会社の窓口だったはずのやりとりに、急に家庭が入ってくるからです。
Loewenstein(2019)が整理した「反復してから破る」構造では、反復が期待を作り、その後の変化が驚きを生みます。 ただし、この構造は笑い専用ではなく、驚きが必ず面白さになるわけでもありません。重要なのは、三という数そのものより、受け手が規則をつかんだところで何が変わるかです。
一回目で規則が伝わらなければ、二回目は単なる追加情報です。逆に、お約束をよく知る観客なら、短い合図だけで続きが予想できます。必要な長さは、観客がすでに知っていることによって変わります。
天丼と、同じ録音をもう一度聞くこと
反復には、飽きるという側面もあります。PistoleとShor(1979)は、同じユーモラスな音声素材を二度提示し、集団か個人か、録音された笑い声があるかを変えました。 反応の低下や維持の仕方は、条件と測定項目によって異なりました。
この実験は、場面を変えてセリフを戻す天丼を直接試したものではありません。だから「繰り返すと必ずつまらなくなる」とも、「笑い声を足せば必ず保てる」とも言えません。
もう一度でも受け取れるもの
人物が予想どおり動いた満足感、音や動作そのものの可笑しさ。意味や状況を変えなくても、二度目に働く部分はあります。
最初の新鮮さだけの場合
初出のズレ以外に何も残っていなければ、二回目は弱くなるかもしれません。作る側は、そこを確かめてから重ねます。
遠くで戻すなら、思い出せる手がかりを
冒頭で「担当者に確認します」を置き、長い話の最後に客が同じ一言を返す。こうした回収では、前の場面を覚えていることが楽しさの一部になります。
創作するときは、戻す言葉を増やしすぎず、最初に特徴のある形で置いておきます。「確認します」という一般的な言葉だけでは気づかれないなら、口調や動作も同時に戻す方法があります。 これは制作上の提案であり、最適な回数や間隔が測定されているわけではありません。
テキスト大喜利では、とくに共有範囲に注意が必要です。自分には前の回答の続きでも、その回答だけ表示された読者には前提がありません。 単独で読める部分と、前を知ると増える楽しさを両方置けるか、確かめてみます。
一つのセリフで、三つ作ってみる
練習には、短い決まり文句を一つ選びます。「規則ですので」「一応、念のため」「あと五分だけ」などです。そのうえで、次の三つを別々に書きます。
- 1
状況だけを変えて、同じセリフを言わせる——お約束の再登場にあたります。
- 2
同じセリフが来そうな場面で、別の返事をさせる——反復からの変化にあたります。
- 3
少し離れた場面で、別の人物に同じセリフを言わせる——回収にあたります。
読み返すときは、どれが一番面白いかに加えて、「どの前提を覚えていてほしいか」を確認します。 反復を組み立てることは、観客と何を共有し、いつ思い出してもらうかを組み立てることでもあります。
参考文献
- Thomas C. Messerli, Repetition in Telecinematic Humour(2021), DOI
- Jeffrey Loewenstein, “Surprise, Recipes for Surprise, and Social Influence” (2019), DOI(オンライン先行公開は2018年)
- Donna D. Pistole & Ronald E. Shor, “A Multivariate Study of the Effect of Repetition on Humor Appreciation as Qualified by two Social Influence Factors” (1979), DOI
反復の最適な回数や間隔を実証した研究ではありません。本記事の三分法と練習案は、読み比べるための編集上の整理です。