READ THE FRAME, ADD THE STORY
実践 · 約8分
写真で一言——写っているものから、写っていない話を作る
写真で一言は、画面の説明でも、画像と無関係なセリフでもない。写っている手がかりと、写っていない関係を分けて組み立てます。
面白くする前に、三つだけ見る
雨の中、一人の人が傘を持って立っています。ところが傘の下にあるのは本人ではなく、ベンチに置かれた小さな箱。本人の頭は濡れています。 ここに一言を添えるとしたら、何を考えるでしょうか。
写真で一言は、画面にあるものを説明するだけでも、画面と無関係な面白いセリフを出すだけでもありません。 写っている手がかりを使いながら、写っていない理由や関係を加える遊びとして考えられます。
最初に、画面から確認できることを挙げます。この段階では、まだ物語を決めません。
| 手がかり | 図からわかること | まだわからないこと |
|---|---|---|
| A:顔と頭 | 本人は傘の外にいる | わざとなのか、気づいていないのか |
| B:手 | 傘を箱のほうへ差している | 頼まれたのか、自分で選んだのか |
| C:箱 | ベンチに置かれ、雨を避けている | 中身は何か、誰のものか |
「本人より大切な荷物なのだ」は、もっともらしい解釈ですが、まだ画面に写っている事実ではありません。「傘の持ち方を間違えた」「箱に指示されている」など、別の話も作れます。 事実と解釈を分けておくと、最初に思いついた物語に縛られず、同じ画面から別案を出しやすくなります。
一言が変わると、箱の立場も変わる
| 創作回答 | 主に使う手がかり | 加えた関係 |
|---|---|---|
| 「『中身を濡らさないで』しか引き継がれていない」 | 本人が濡れ、箱を守っている | 指示に忠実すぎる仕事 |
| 「段ボール先輩を濡らすわけにはいかないので」 | 人より箱が保護されている | 人と箱の上下関係 |
| 「この中に、折りたたみ傘が入っているんです」 | 開けられていない箱 | 自分を助ける物が箱の中にある |
回答の優劣を決める表ではありません。自分の一言が、画像のどの情報を使っているかを確かめるためのものです。
一つ目は、人物の判断を仕事の手順として読み直す。二つ目は、箱に地位を与える。三つ目は、箱の中身を変えることで、今の行動の非効率さを見せます。 どれも、「箱が守られ、人が濡れている」という同じ構図を使っています。飛躍の方向は違っても、画面に戻る場所が残っています。
画像と言葉の関係を扱う研究
Hesselら(2023)は、雑誌『The New Yorker』の漫画キャプションコンテストを用いて、画像とキャプションの対応づけ、優れたキャプションの識別、面白さの説明という課題を作りました。 データには、場面の要素や、何が普通でないかを記述した情報も含まれます。
これはAIの評価を目的とした研究であり、人間の写真大喜利の上達法を実験したものではありません。 ただ、画像内の物を識別すること、場面の異常に気づくこと、言葉との関係を説明することを分けて考える視点は参考になります。
「人、傘、箱」と名詞を列挙するだけでは、まだ「人より箱が大切に扱われている」という関係に届いていません。写真で一言の練習でも、物の一覧から、物と人物の関係へ進んでみます。
写っていないものを、三方向から足す
本記事では、案が止まったときの操作として、三つの方向を提案します。
直前を作る
なぜ、この状態になったのか。「上司から箱だけは死守するよう言われた」「箱を開ける係がまだ来ていない」など、画面の一秒前を想像します。
画面の外を作る
誰に話しかけているのか。見えない相手が配達員なのか、箱の持ち主なのか、箱の部下なのかで、同じ表情も変わって読めます。
物の役割を変える
箱を荷物ではなく、先輩、客、審査員として扱う。見た目はそのままでも、社会的な立場を足すことで別の世界ができます。
三つ全部を一回答へ詰める必要はありません。画像が持っている情報と、言葉で加える情報の量を分けます。 言葉で新しい設定を増やしすぎると、読者が画像を見る前に、説明を覚える仕事を抱えてしまいます。
普通の説明を書いてから、変えてみる
AmirとBiederman(2016)は、プロ・アマチュアのコメディアンなどが漫画にユーモラスな、または平凡なキャプションを考える際の脳活動を調べました。 ここで参考になるのは、同じ画像でも「普通に合う言葉」と「面白い言葉」を分けて作る課題の置き方です。脳活動の違いから、そのまま発想の必勝手順が得られるわけではありません。
箱が濡れないように、傘を差している。
画面の説明。ここでは面白さを狙わない箱のほうが役職が上なので、傘を差している。
画面とつながったまま、関係だけを入れ替える段ボール先輩を濡らすわけにはいかないので。
設定を説明せず、呼び方だけで立場を渡す観察、発想、言い方を一度に解決しようとせず、いったん分けて作る方法です。
その画像である必要は、どこにあるか
仕上げでは、画像を別のものに取り替えたつもりで読んでみます。傘がなくても、箱がなくても、同じセリフが同じように通るなら、画像との結びつきは弱いのかもしれません。
もちろん、汎用的なセリフが偶然その表情にぴたりとはまることもあります。「その写真でしか成立しない」が絶対条件ではありません。それでも、手、目線、物の配置のどれかを拾えているかは、点検する価値があります。
最後に回答を隠し、もう一度画像だけを見る。次に回答を戻す。見える人間関係や出来事が変わったなら、その一言が画像へ加えた仕事を確認できます。
参考文献
- Jack Hessel ほか, “Do Androids Laugh at Electric Sheep? Humor ‘Understanding’ Benchmarks from The New Yorker Caption Contest” (2023), ACL Anthology
- Ori Amir & Irving Biederman, “The Neural Correlates of Humor Creativity” (2016), DOI
写真と漫画では手がかりの作られ方が異なります。上記研究を、写真大喜利全般の検証結果として扱ってはいません。